本郷座

「東京夢幻図絵」都筑道夫(中公文庫)を読んだ。
 連作であり、語り手の一人称で物語は進むので「叙述のトリックでも使われているのかしらん」などと思いながら読み進めていったが、最後までそのような部分に触れる記述は無かった。都筑道夫のことだからもしかすると、あえて触れない、という意地悪いことをしているかもしれない。しかし漫然と読んだだけだからなあ。本当のところはどうなのだろう?読み功者の方に聞いてみたいところではある。
 しかし、そんなところにこだわらなくても非常に面白く読めた。何故ならば舞台が戦前〜戦中にかけての文京区、千代田区あたりに設定されているからである。ほぼ僕の地元ってことです。特に本郷が主人公の住居であるというのが非常にうれしい。現在の僕の住所である。(ミスコンの舞台でもありますね。)
ということで戦前の本郷の描写が、どんどん出てくるのだが、そこに本郷の交差点付近に「本郷座」という洋画館があったという記述があった。
もう、この記述だけでも本書は「読む価値あり」である。いま「本郷座」があったら週一下手すりゃ週二で通っちゃうね。家から徒歩五分のところに映画館があるって結構憧れるなあ。
というわけでほぼ個人的な理由で、素晴らしい作品だった。

ついでに「きみの血を」シオドアスタージョン(ポケミス)を読了。
テーマ自体には新味は見当たらない。(発表当時に関しては、ね)
しかし、作品全体の構成のおもしろさで読ませる作品である。
テーマがテーマだけに、これだけの分量というのも良い。